スペイン語で探る「ドン・キホーテ」の世界:概要・風車の舞台への旅

    1. スペイン語で観光と文化

    スペインを代表する小説『Don Quijote(ドン・キホーテ)』。日本語でもスペイン語でも一度は読んでおきたい名作です。

    今回はヨーロッパ中世の歴史からスペインの地理までも学べる『ドン・キホーテ』の世界へ、皆さんをご案内します。

    スペイン語で探る「ドン・キホーテ」の世界:概要・風車の舞台への旅

    「ドン・キホーテ」とは?

    Don Quijote(ドン・キホーテ)』は、17世紀にスペイン人作家 Miguel de Cervantes(ミゲル・デ・セルバンテス)によって書かれた小説です。

    Don(ドン)は、男性に対する敬称で、貴族の男性の名前に付けられます。Quijote(キホーテ)は、小説に登場する主人公の名前。つまり、ドン・キホーテとは「キホーテ卿」という意味です。

    この呼び名は、下級貴族出身の主人公が自分を伝説の騎士だと思い込み、妄想によって自ら名付けたものです。主人公の本名は、アロンソ・キハーノ。彼はどうしてドン・キホーテとなり、いったいどんなことをしたのでしょうか…。

    「ドン・キホーテ」の概要

    1605年に出版された『ドン・キホーテ』は、現代小説の祖といわれています。全世界で最も読まれている物語であり、累計発行部数は5億部を超えるベストセラー。『指輪物語』や『星の王子さま』といった有名作より、さらに多くの人々に読まれています。

    物語は「騎士道小説を読みすぎて現実との区別がつかなくなってしまった主人公が、遍歴の騎士として旅に出る」というもの。前編と後編(1615年出版)があり、日本語の翻訳本では全4冊〜6冊ほどにまとめられている、かなり長い作品です。

    著者であるセルバンテスは、銀行の倒産による税金の未納で投獄されていた際に、獄中でこの物語の構想を思いついたのだとか。

    作品の背景と風刺の要素

    『ドン・キホーテ』が名作といわれる理由の1つは、主人公を中心とした描写の中にピリリとした風刺を溶け込ませているからです。

    “おもしろい冒険物語” “繰り返されるドタバタ喜劇”として読んで楽しむことができるのですが、実はそこに当時の社会や価値観に対するメッセージが含まれています。

    騎士道小説に夢中になり、時代錯誤に気づかず思い込みで行動していく主人公。『ドン・キホーテ』が出版される前のヨーロッパでは、実際に騎士道小説が流行っていました。

    主人公の妄想やバカバカしさは、時代背景や騎士道小説を皮肉ったものでもあり、物語の描写には、古い価値観、伝統、王政などに対する風刺も織り込まれているといわれています。

    世界的なベストセラーとしての影響

    スペインのみならず世界中で注目され、今なお多くの人々に読まれている『ドン・キホーテ』。これまでには映画化や演劇化もされてきました。

    1933年に公開されたフランス語版の映画『ドン・キホーテ』、1965年にアメリカ・ブロードウェイで初演されたミュージカル『ラ・マンチャの男』。日本では1969年に歌舞伎役者である当時六代目市川染五郎さんが『ラ・マンチャの男』を演じ、話題となりました。

    また、バレエ・ドラマ・アニメ・漫画など、さまざまな形で『ドン・キホーテ』を原作とする作品が展開されています。ヨーロッパ文学界、さらには世界中のクリエーターたちに多大な影響を与えてきた小説であることは間違いありません。

    ドン・キホーテの作家作家セルバンテス

    作家セルバンテスの人生と業績

    貧しい家庭からの出発

    1547年、セルバンテスは外科医の家庭に生まれました。外科医といっても当時は十分な収入が得られず貧しかったため、セルバンテスはきちんとした教育は受けられなかったそうです。

    そんな中、彼は幼少期より読書を好み、熱心に本を読んでいたといいます。

    軍人としての経歴と障害

    22歳の時にイタリア・ナポリでスペイン海軍に入隊したセルバンテスは、海戦で被弾して腕に障害を負い、左手が使えなくなってしまいます。

    その後4年間従軍して帰国する途中、海賊に襲われて捕虜に。そして5年も捕虜生活を送った後に、スペインへ帰国。家族との再会を果たしたものの、その後もまた厳しい生活が続きます。

    投獄と作品の創造

    父や弟の死・失職など、さまざまな苦難を経験することになるセルバンテス。彼は教会侮辱罪や不正行為などにより、何度も投獄されています。

    47歳で徴税の職に就いていた時、銀行が破産して多額の未納金負債を抱えて再び投獄されることに。そんな投獄中に彼は『ドン・キホーテ』の着想を得たそうです。

    そしてバジャドリードで執筆に取り掛かり、ついに1605年『ドン・キホーテ』を出版。するとたちまち評判となり、短期間で人気を集め売れ行きが伸びていきました。

    その後、セルバンテスは1616年に亡くなるまで、他にも数々の名作を残しています。『ドン・キホーテ』の続編(後編)が刊行されたのは、亡くなる1年前、1615年のことでした。

    作品へと反映された苦難

    経済的な困窮・不運・失敗…。セルバンテスの人生は波乱に満ちていました。彼の実体験が、風刺や皮肉に繋がっていることは少なからずあります。しかし、苦難も古い価値観も笑い飛ばすように絶妙な描写で読者を楽しませてしまうのが、作家セルバンテスのすばらしさ。

    古典的であると同時に前衛的な仕掛けを差し込み、どんでん返しなどもありで飽きさせない。セルバンテスの生涯を垣間見てから『ドン・キホーテ』を読み込んでみると、より奥行きを感じられます。

    世界中で知られるセルバンテスの名

    作家セルバンテスについてこれまであまり知らなかったという人でも、スペイン語を勉強中ならその名を一度は聞いたことはあるではないでしょうか。

    スペイン政府の文化機関に「インスティトゥト・セルバンテス」があります。全世界に拠点を置き、スペイン語教育やDELEスペイン語検定試験を行っている機関です。日本にも、東京に施設がありますね。

    スペイン語圏で最も権威ある文学賞の1つは「セルバンテス賞」という名です。スペイン語で執筆する作家の功績を称える賞で、ミゲル・デ・セルバンテスにちなんで名付けられました。

    セルバンテスの命日である4月23日は「世界の本の日」であり、著作権デーでもある記念日です。セルバンテスの存在は世界中で生き続け、忘れ去られることは決してありません。

    ドン・キホーテのあらすじ

    「ドン・キホーテ」のあらすじと主要なキャラクター

    あらすじ〜主人公の妄想と冒険~

    物語の舞台はヨーロッパ中世。当時流行していた騎士道物語ばかりを読んでいた主人公アロンソ・キハーノが、現実との区別がつかなくなり、自分を伝説の騎士だと思い込んで冒険の旅に出ます。

    年齢50歳ほどの彼がその時自分自身に付けたその名は、 Don Quijote de la Mancha(ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ)。

    騎士道物語とは、主人公が遍歴の旅に出かけ、敵を倒して町の民衆を解放したり、姫を救ったりするものでした。その騎士道小説に心酔していた彼は妄想を膨らませ、自分こそが世を救うのだと考えます。そして鎧をまとって、旅へと繰り出したのでした。

    ドン・キホーテは、痩せ馬 Rocinante(ロシナンテ)と、太っちょの農夫 Sancho Panza(サンチョ・パンサ)をお供にします。また、村娘のアルラドンサを“思い姫“に仕立てました。

    こうして始まった彼の冒険の旅は、次々とトラブルを引き起こしていきます。ある日、丘の上に並ぶ風車を巨人だと信じたドン・キホーテは、風車に突撃!しかし、あえなく吹き飛ばされて地面に叩き付けられてしまいます。

    最も有名なエピソード〜風車との戦い~

    「風車との戦い」は『ドン・キホーテ』の中で最も知られているエピソードです。丘の上に並んでいた3〜40基の風車を凶暴な巨人だと信じ込み、「倒せ!」と立ち向かうドン・キホーテ。

    隣にいるサンチョ・パンサが「あれは風車ですよ」と言っても、聞く耳を持ちません。

    ちなみに風車のシーンをはじめ、ドン・キホーテとサンチョ・パンサの2人のやりとりは、この物語のおもしろいポイントです。猪突猛進型のドン・キホーテに対して、単純で無学だけれど善良で機転が利く従者サンチョ・パンサ。

    小説ファンたちからは「文学史上最高のでこぼこコンビ」「天下の名コンビ」「古今無双の迷コンビ」と呼ばれています。

    スペインの風車

    物語の舞台、ラ・マンチャ地方とは?

    『ドン・キホーテ』の舞台となっているのは、カスティーリャ・ラ・マンチャ。スペインの中部に位置している州です。起伏がなく、広大な平原を見渡せるのがこの地方の特徴。季節によってぶどう畑やアマポーラの花畑が辺り一面を彩る姿は圧巻の美しさです。

    セルバンテスが生まれた生家や、小説のモデルとなった風車などがあり、マドリードから車もしくは電車で1〜2時間ほどで行くことができます。

    ドン・キホーテの舞台への旅

    『ドン・キホーテ』に登場するような風車のある風景は、現在でも実際に見られます。本当に巨人に見えるのか…、気になる人はぜひラ・マンチャ地方にある村、コンスエグラやカンポ・デ・クリプターナへ足を運んでみてください。

    昔ながらの素朴な景色が残る地に立つと、タイムスリップしたような感覚になれますよ。

    白い風車が並ぶ村

    古い風車が並ぶ美しい景色が見られるのは、カンポ・デ・クリプターナもしくはコンスエグラです。マドリードから日帰りで行ける距離にあります。

    【カンポ・デ・クリプターナへの行き方】

    カンポ・デ・クリプターナは、カスティーリャ=ラ・マンチャ州のシウダー・レアル県にある村です。ここには、風車は10基立ち並んでいます。

    マドリードからはアトーチャ駅からアルバセテ行きの電車に乗って約2時間ほどです。

    【コンスエグラへの行き方】

    コンスエグラはカスティーリャ・ラ・マンチャ州トレド県内の村で、12基の白い風車があります。

    お城もあり観光も楽しめますが、1日周るほどスポットが数多いわけではないので、併せてトレドも見に行くのがおすすめ。アクセスは車かバスで。日帰りのバスツアーが便利です。

    セルバンテス生誕の地 アルカラ・デ・エナーレス

    アルカラ・デ・エナーレスはセルバンテスが生まれた地です。1547年、かつてセルバンテスの父ロドリーゴ・デ・セルバンテスが外科医として働いていたアンテサナ病院でセルバンテスが誕生しました。

    この街には、セルバンテスの生家を再構築した生家博物館があります。その他、街の観光スポットとして大聖堂やモニュメントも見どころ。大学や旧市街はユネスコの世界遺産に登録されています。

    マドリードからはアトーチャ駅から電車で45分。バスなら約1時間で行くことができます。

    ドン・キホーテにゆかりのあるマドリードのスポット

    1616年に68歳でこの世を去っているセルバンテスは、夫人と共にマドリードのトリニタリアス修道院に埋葬されていたと伝えられています。

    また、スペイン広場にはセルバンテスの記念像と、ロシナンテにまたがるドン・キホーテ、その横にはロバのルシオに乗ったサンチョ・パンサの銅像もあります。

    スペイン語で読む「ドン・キホーテ」の魅力

    スペイン語がわかればもっとおもしろい!

    主人公のお供となる馬ロシナンテの名は、スペイン語で Rocinante 。この言葉には「痩せた老いぼれ馬」という意味があります。またサンチョ・パンサの Panza は「太鼓腹」という意味。

    このように、登場人物の名前にもユーモアと皮肉が込めているのが『ドン・キホーテ』の魅力です。

    原文の美しさと深み

    作品が生まれた時代背景を知り、スペイン語で原作を読むことができれば、セルバンテスが描く描写を一層深く味わえます。

    スペイン語で読むのはなかなか難しいですが、スペイン語のレベル別に読みやすく編集されている本も販売されているので、自分に合った形でぜひ読んでみてください。「難しそう」と感じて読まずじまいでいるよりは、簡単なバージョンでも読み始めてみることをおすすめします。

    日本語の解説本や「絵で読む」「漫画で読む」といった翻訳本を参考にして、まずは日本語で物語を理解してからスペイン語版に挑戦してみるのも良いでしょう。

    スペイン語学習に役立てよう!

    原作以外にも、『ドン・キホーテ』を題材にしたスペイン語の教材本はたくさんあります。作品を通して、スペイン語の構文・表現・単語・会話などを学習していきましょう。ユーモアのある言い回しや、胸に刺さるような名言を見つけると、きっと楽しくなってくるはずです!

    スペイン語のドン・キホーテ

    「ドン・キホーテ」から学ぶスペイン語

    最後に『ドン・キホーテ』の原作から選んだスペイン語の名文をご紹介します。物語に欠かせない代表的なスペイン語単語も併せて覚えてください。

    「ドン・キホーテ」に関連したスペイン語

    • la novela de caballerías(ラ ノベラ デ カバジェリアス)騎士道小説
    • la novela satírica(ラ ノベラ サティリカ)風刺小説
    • caballero medieval(カベジェロ メディエバル)中世の騎士
    • protagonista(プロタゴニスタ)主人公
    • escudero(エスクデロ)従者
    • la Amistad(ラ アミスタッ)友情
    • la valentía(ラ バレティア)勇気
    • Molinos de viento(モリノス デ ビエント)風車群
    • la realidad y la fantasia(ラ レアリダッ イ ファンタシア)現実と空想

    スペイン語の原題

    日本語では『ドン・キホーテ』というタイトルですが、スペイン語での原題は

    El ingenioso hidalgo Don Quijote de la Mancha

    エル インゲニオソ イダルゴ ドン キホーテ デ ラ マンチャ

    「才智あふれる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」です。

    これは前編のタイトルで、後編は

    Segunda parte del ingenioso caballero Don Quijote de la Mancha

    セグンダ パルテ デル インゲニオソ カバジェロ ドン キホーテ デ ラ マンチャ

    「才智あふれる騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャの後編」となっています。

    原作に出てくるスペイン語の名文

    ¿No sabes tú que no es valentía la temeridad?

    ノーサベス トゥ ケ ノー エス バレンティア ラ テメリダッ

    無謀は勇気とは違うことを知らないのか?

    No huye el que se retira.

    ノー  ウジェ エル ケ セ レティラ

    退くものは逃げるのではない。

    Ladran, Sancho, señal de que cabalgamos.

    ラドラン, サンチョ, セニャル デ ケ カバルガモス

    吠えられているぞ、サンチョ。批判されているなら、それは自分が前に進んでいる証拠だ 。

    El que lee mucho y anda mucho, ve mucho y sabe mucho.

    エル ケ レエ ムーチョ イ アンダ ムーチョ, べ ムーチョ イ サベ ムーチョ

    よく読み、よく歩く人は、よく見て、よく知る人だ。

    La ingratitud es hija de la soberbia.

    ラ イングラティトゥー エス イハ デ ラ ソベルビア

    傲慢は恩知らずの娘。

    La virtud más es perseguida de los malos que amada de los buenos.

    ラ ビルトゥー マス エス ペルセヒーダ デ ロス マロス ケ アマーダ デ ロス ブエノス

    徳行は善人によって愛されるよりは悪人によって迫害されることのほうが多いものだ。

    Confía en el tiempo, que suele dar dulces salidas a muchas amargas dificultades.

    コンフィア エン エル ティエンポ, ケ スエレ ダル ドゥルセス サリダス ア ムーチャス アマルガス ディフィクルタデス

    多くの苦い悩みには自然と終止符が打たれる。時を信じよ。

    Come poco y cena menos, que la salud de todo el cuerpo se fragua en la oficina del estómago.

    コメ ポコ イ セナ メノス, ケ ラ サルー  デ トド エル クエルポ セ フラゲ エン ラ オフィシナ デル エストマゴ

    昼食は控えめに、夕食はさらに控えめに。全身の健康は胃の働きによって管理される。

    No desees y serás el hombre más rico del mundo.

    ノー デセエス セラス エル オンブレ マス リコ デル ムーチョ

    何も欲しなければ、あなたは世界一豊かになれる。

    El sueño es el alivio de las miserias para los que las sufren despiertos.

    エル スエニョ エス エル アリビオ デ ラス ミセリアス パラ ロス ケ ラス スフレン デスピエルトス

    目覚めている間に悩んでいる人には、眠りが救いをもたらす。

    まとめ

    永遠の名作『ドン・キホーテ』を、ぜひいつかスペイン語で読んでみてください。原文を理解できるようになることを目標に、コツコツとスペイン語を勉強していきましょう!

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