スペインの言語事情:公用語と地域特性を理解する

  1. スペイン語挨拶・あいさつ

スペインの公用語はスペイン語だけではありません。ほかにもカタルーニャ語・ガリシア語・バスク語を母国語とする地域があります。

今回のテーマは「スペインの言語事情」について。各言語の歴史や特徴と、基本の挨拶をご紹介します。

スペインの言語事情:公用語と地域特性を理解する

スペインの言語とその背景

一般的に「スペイン語」と呼ばれている言語は「カスティーリャ語」とも名付けられているもので、スペイン全土に共通する公用語です。しかし、ほかにも地域ごとに異なる多様な言語があり、それぞれが貴重な文化として守られています。

なぜスペインには複数の言語が存在しているのでしょうか?それは、歴史的な背景や地理的な環境に関連しています。

スペインの言語文化が生まれた歴史

スペイン語は、古代ラテン帝国で使われていたラテン語に由来するロマンス語の1つです。ラテン語を起源とする言語にはスペイン語のほかにもイタリア語・フランス語・ポルトガル語などがあり、各地域に派生していきました。

そして、スペイン語はギリシャ語やゲルマン語・アラビア語の影響も受けています。特にスペインはかつて800年もの間イスラム教の支配下にあったことから、アラビア語を語源とする言葉が今でも数多く残されているのが特徴です。

スペイン国内の言語文化は各地ごとに形成されていき、ガリシア語・カタルーニャ語・バレンシア語などが話されるようになっていきました。

ラテン語が入ってくる前から使われていた民族語が、現在でも残っている地域もあり、それがバスク語です。

スペイン北部およびフランスの南西部で使われているバスク語はラテン語の影響を受けておらず、他のどの語族にも属さない独自の言語であり、綴りや発音などがスペイン語とは異なります。

スペインの公用語は?

スペイン全土の公用語はカスティーリャ語です。また、スペインでは自治州ごとにも公用語が定められています。

言語学的に公用語として定められているのは、カスティーリャ語・カタルニア語・ガリシア語・バスク語の4つ。その他にも、バレンシア語・アラン語・アラゴン語・アストゥリアス語・レオン語などの各地の言語があります。

バレンシア語はスペインを代表する主な言語の1つですが、言語学上ではカタルーニャ語の方言とされています。

小さなスペイン国旗が地図上にピンで留められており、西ヨーロッパにおけるスペインの位置を示しています。周囲の国々と水域が見えます。

スペイン各地の言語

今回はスペインで使われている代表的な言語として、カスティーリャ語・カタルーニャ語・ガリシア語・バスク語の4つについて解説していきます。

各言語の特徴を知る前に、それぞれの言語がいかに異なるかをまず簡単に見てみてください。類似している点があるものの、各言語が「スペイン語の方言」ではなく「スペイン語とは違う言葉」であることがわかるのではないでしょうか。

スペイン各地の言語の比較

ここでは「ありがとう」「おはよう」「こんにちは、お元気ですか?」という3つの基本フレーズを見比べてみましょう。

各言語の特徴については、続く項目で詳しくご紹介します。

「おはよう」

カスティーリャ語Buenos días
ブエノス ディアス
カタルーニャ語Bon dia
ボン ディア
ガリシア語Bos días
ボス ディアス
バスク語Egun on
エグノン

「ありがとう」

カスティーリャ語Gracias
グラシアス
カタルーニャ語Gràcies
グラシエス
ガリシア語Grazas
グラサス
バスク語Eskerrik asko
エスケリック アスコ

「こんにちは、元気ですか?」

カスティーリャ語¡Hola! ¿Cómo estás?
オラ, コモ エスタス
カタルーニャ語Hola! Com estàs?
オラ コム エスタス
ガリシア語Olá! Como estás?
オラ, コモ エスタス
バスク語Kaixo! Zelan zaude?
カイショ, シェラン サウデ

スペイン語(カスティーリャ語)は、感嘆符や疑問符を逆さにした記号を文頭に付けるというルールがあります。しかしその他の言語では、文頭の逆さ記号を付けることは義務付けられていません。

スペイン語とその他の言語の違い

スペイン語(カスティーリャ語)とその他3つの言語は文法や発音が異なります。

それぞれのルーツとしては、カスティーリャ語・カタルーニャ語・ガリシア語がインド・ヨーロッパ語族イタリック語派。バスク語の系統は正確には明らかになっておらず不明とされています。

スペインの歴史的な遺跡のアーチ型の石造りの出入り口の前で両手を上げて立っている人物。背景には広大な緑の芝生と澄んだ空が広がっています。

castellano:カスティーリャ語

castellano(カステジャーノ)=カスティーリャ語は、一般的に「スペイン語」と呼ばれている言語。español(エスパニョール)と同意義ですが、スペインにおいてはガリシア語やバスク語のように公用語となっている名称です。

カスティーリャ語の特徴と使われている地域

カスティーリャ語はもともとスペイン北西部に位置するカスティーリャ・イ・レオン州で話されていたとされ、現在スペイン全土で公用語として使われています。

カタルーニャ州・バレンシア州・ガリシア州・バスク州など、カスティーリャ語以外の言語が継承されている地域もありますが、スペイン国内のほとんどで日常生活に用いられているがカスティーリャ語です。

カスティーリャ語を母国語としている人たちの割合はスペイン全体で約90%にのぼるといわれています。

カスティーニャ語の挨拶とフレーズ例

初めまして

Encantado/encantada de conocerte

エンカンタード/エンカンターダ デ コノセルテ

私の名前はカルロスです

Mi nombre es Carlos

ミ ノンブレ エス カルロス

さようなら

Adiós

アディオス

私はカスティーリャ語をうまく話せません。

No hablo castellano bien.

ノー アブロ カステリャーノ ビエン

catalán:カタルーニャ語

スペインの代表的な観光地といえばバルセロナです。日本からも毎年多くの人たちが訪れている人気の街。そんなバルセロナが州都であるカタルーニャ州の母国語が、カタルーニャ語です。

スペイン語表記は catalán(カタラン)。

カタルーニャ語の特徴と使われている地域

カタルーニャ語が使われているのは、カタルーニャ州全域。バレンシア州・バレアレス諸島・アラゴン州・ムルシア州、さらには隣接するフランスやイタリアの一部にも話者がいます。

スペインの東北部に位置するカタルーニャ州は、バルセロナ・ジローナ・リェイダ・タラゴナの4つの県から成っている地域です。

バルセロナにはサクラダファミリアやグエル公園など、ガウディの美しい建築物が数々あるというのはすでにご存知の方が多いことでしょう。

その他にも、タラゴナ県のタラコ考古学遺跡群やポブレー修道院、リェイダ県のバル・デ・ボイにある教会など、スペインの中で最も世界遺産が多い地域がカタルーニャ州です。

そんなカタルーニャ地方の言語は、フランス南部にあるオクシタニアの地方語に近いといわれています。フランス語に似ているのが特徴で、カスティーリャ語とは響きも言葉も綴りも異なるため、全く違う言語だと考えてください。

例えば母音の数が異なり、カタルーニャ語のほうがカスティーリャ語より多く8つあります。不定詞や冠詞、人称代名詞や動詞の使い方も違い、スペイン語のネイティブスピーカーでさえカタルーニャ語を学んでいなければ会話ができません。

カタルーニャ語独自の文化と歩み

かつてフランコの独裁政権下では、カスティーリャ語以外の言語や方言の使用が制限されていました。そして民主化後、その他の言語が各自治州で公用語として認められるようになったという経緯があります。

このような歴史を経て、独自の言語を使用することに高い意識を持っているのがカタルーニャ州の人々です。現在でも幼稚園から学校教育に至るまでカタルーニャ語を用いた文化が大切に受け継がれ、街中では交通標識や店の看板表示もカタルーニャ語。

観光地では英語やスペイン語が併記されていてスペイン語でのコミュニケーションが可能ですが、中には独自の文化を誇り日常的にはカタルーニャ語のみを使うという人たちもいます。

カタルーニャ語の挨拶

初めまして

Encantat de conèixer-te

エンカンタッ デ クネイシャルタ

私の名前はカルロスです

Em dic Carlos

アム ヂク カルロス

さようなら

Adéu

アデウ

私はカタルーニャ語をうまく話せません。

No parlo bé el català

ノー パルロ ベ エル カタラ

スペインの澄み切った青空を背景に、双子の塔とバロック様式の建築が特徴のサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の眺め。石段とアーチのある建物が前景を囲んでいます。

gallego:ガリシア語

スペイン北西部に位置するガリシア地方の公用語であるガリシア語。スペイン語の表記はgallego(カジェゴ)、ガリシア語では galego(ガレゴ)です。

ガリシア地方ではこの言語を守るため保護政策が進められ、学校教育もガリシア語で行うことが義務付けられています。

ガリシア語の特徴と使われている地域

ガリシア語はガリシア州で使われている言語です。この地域ではカスティーリャ語も公用語となっていますが、州内の半数はガリシア語を母国としているといわれています。

スペイン国外でもガリシアからの移民が多いブエノスアイレス(アルゼンチン)やメキシコ・シティ(メキシコ)といったラテンアメリカの都市でガリシア語のコミュニティがあります。

ガリシアはポルトガルに隣接していることから、ガリシア語はポルトガル語とよく似ているのが特徴です。ポルトガルの一部でもガリシア語に似ている方言があり、それも地理的に見れば不思議ではありません。

そもそも中世まではガリシア語とポルトガル語は同一の言語であったといわれ、いずれも系統としてはイベロ・ロマンス語に分類されています。

ガリシア語の挨拶

初めまして

Encantado de coñecerte

エンカンタド デ コニェセルテ

私の名前はカルロスです

Chámome Carlos

チャモメ カルロス

さようなら

Adeus

アデウス

私はガリシア語をうまく話せません。

Non falo moi ben galego.

ノン ファロ モイ ベン ガレゴ

vasco:バスク語

約70万人の話者がいるといわれるバスク語。スペイン語では vasco(バスコ)、バスク語では euskera(エウスケラ)と表記します。バスク州内でも各地によって方言があり、それらに加えてカスティーリャ語が公用語となっています。

バスク語の特徴と使われている地域

スペインとフランスの両国にまたがるバスク地方に話者がいるのが、バスク語です。バスク州全域およびナバラ州の一部で使われています。

バスク語にはラテン語を起源とする言葉もありますが、文法的にはスペイン語とは異なる特殊な言語です。例えば、スペイン語にはない能格や絶対格が使われ、発音では舌端音と舌尖音の区別があるのが特徴。…といっても、ピンとこないですよね…。

バスク語にまつわる笑い話として、こんなものがあります。

「悪魔がバスク人を誘惑するためにバスク語を習ったが7年間かけて覚えたのは、bai(はい)とez(いいえ)だけだった」。

その2つの単語さえフランス領にある橋を渡ったら忘れてしまったのだとか。これは、それだけバスク語を学ぶのは難しい、ということを表す神話です。

ちなみに、悪魔はバスク語を習得できないために、バスクに住む人々は悪魔の誘惑を決して受けず地獄には落ちないという話も地元で語り継がれています。

また、日本でも司馬遼太郎さんの著書『街道をゆく』の中で、悪魔がバスク語を勉強するという罰を受けて神に許しを乞いた、という話が登場します。

バスク語独自の綴りと発音

バスク語を構成するアルファベットは、スペイン語と同様の27文字です。しかし使われる単語は他の言語とは違い、綴りや発音も異なります。

前述したように「おはよう」は Egun on(エグノン)、「ありがとう」は eskerrik asko(エスケリク アスコ)。

「こんにちは」は kaixo(カイショ)、「これは何ですか?」は Zer da hau?(セル ダ アウ)スペイン語で習う挨拶とは全く違いますよね。

似ているけれど違う、という単語では、例えば「シャンプー」をスペイン語では  champú(チャンプー)と言うのに対してバスク語では xanpu (シャンプー)。発音は英語に近いものの、綴りが異なります。

この他にも違いが多く、バスク語を習得するにはまず基本のアルファベットの綴りと発音をしっかり覚えなければなりません。

バスク語の挨拶

初めまして

Urte askotarako

ウルテ アスコタラコ

私の名前はカルロスです

Nire izena Carlos da

ニレ イセナ カルロス ダ

さようなら

Agur

アグル

私はバスク語をうまく話せません。

Ez dakit euskaraz oso ondo.

エス ダキット エウスカラス オソ オンド

革のストラップが付いた茶色のバックパックが地面に置かれており、前ポケットには折りたたまれたスペインの地図が部分的に見えています。

言語に関するスペイン語&会話例

最後にスペインの言語に関連した単語、例文、会話例をまとめました。スペインの多様な文化をより深く知るためにも、これらの単語や表現を情報検索や会話に活用してみてください。

idioma oficial

イディオマ オフィシアル

公用語

segundo idioma

セクンド イディオマ

第二言語

idioma local

イディオマ ロカル

地方語

Además del castellano, otra lengua es oficial en seis de las 17 comunidades autónomas de España.

アデマス デル カステリャーノ, オートラ レングア エス オシフィアル エン セイス デ ラス ディエス シエテ コムニダデス アウトノマス デ エスパーニャ

スペインにある17の自治州のうちの6つの自治州でカスティーリャ語のほかに別の言語が公用語となっています。

El idioma oficial en toda España es el castellano.

エル イディオマ オフィシアル エン トダ エスパーニャ エス エル カステリャーノ

スペイン全土の公用語はカスティーリャ語です。

Los principales idiomas oficiales de España son el catalán, el gallego y el vasco.

ロス プリンシパレス イディオマス オフィシアレス デ エスパーニャ ソン エル カタラン, エル ガジェゴ イ エル バスコ

スペインの主な公用語はカタルーニャ語、ガリシア語、バスク語です。

Galicia tiene dos idiomas oficiales: el gallego el castellano.

ガリシア ティエノ ドス イディオマス オフィシアル:エル ガジェゴ イ エル カステジャーノ

ガリシア州ではガリシア語とカステリャーノ語の2つが公用語です。

El euskera(vasco)se habla en el País Vasco y Navarra.

エル エウスケラ(バスコ)セ アブラ エン エル パイス バスコ イ ナバラ

バスク語はバスク州とナバラ州で話されています。

El gallego es una lengua que tiene mucho en común con el portugués.

エル ガジェゴ エス ウナ レングア ケ ティエネ ムーチョ エン コムン コン エル ポルトゥゲス

ガリシア語はポルトガル語と共通点が多い言語です。

A:¿Cómo se dice “gracias” en catalán?

コモ セ ディセ グラシアス エン カタラン?

カタルーニャ語で「ありがとう」は何と言いますか?

B:En catalán se dice gràcies.

エン カタラン セ ディセ グラシエス

カタルーニャ語では「グラシエス」と言います。

A:¿Qué significa chinelos (gallego)?

ケ シグニフィカ チネロス?

(ガリシア語の)チネロスとはどういう意味ですか?

B:Chinelos es la palabra gallega para zapatillas.

チネロス エス ラ パラブラ ガジェゴ パラ ザパティージャス

チネロスはガリシア語でスリッパを意味します。

A:¿Por qué puedes entender el valenciano?

ポル ケ プエデス エンテンデール エル バレンシアーノ

あなたはなぜバレンシア語が理解できるのですか?

B:Porque hablo catalán, y los dos idiomas son casi iguales.

ポルケアブロカタラン, イ ロス ドス イディオマス ソン カシ イグアレス

私はカタルーニャ語を話すのですが、この2つの言語はとても似ているからです。

A:¿El euskera se parece al gallego?

エルエスケラセパレセアルガジェゴ

バスク語はガリシア語と似ていますか?

B:No, el gallego es de origen latino, pero el euskera no.

ノー, エル ガジェゴ エス デ オリヘン ラティーノ, ペロ エル エスケラ ノー

いいえ、ガリシア語はラテン語起源ですが、バスク語はラテン語起源ではありません。

A:¿Qué idioma es el castellano?

ケ イディオマ エス エル カステリャーノ

カステジャーノとはどんな言語ですか?

B:Castellano es otro nombre para hablar del español.

カステジャーノ エス オートロ ノンブレ パラ アブラール デル エスパニョール

カスティジャーノ(カスティーリャ語)はスペイン語を示すもう1つの名称です。

おわりに

スペインの言語事情は、地理的・歴史的な背景から生まれた固有の文化を反映しています。各地の言葉の違いを通して、スペインの魅力の1つである多様性を知ることができるでしょう。

各言語が理解できなくても、せめて各地を旅したら、今回ご紹介した挨拶だけでも使ってコミュニケーションをはかってみてください。

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